地上と地下と双子の英雄 第一章 2話
「あぁぁぁー!!!その本!!」
その叫び声は、木々を揺らめかせるほどに響き渡る。思わず顔を顰めると、マステラはこちらにズンズン近寄ってきた。
「なんだよ、うるせぇな」
「その本をずっと探してたんだよー!」
思わず顔を顰めた俺にも構わずマステラは俺によって抱えられていた魔導書を引っ張り取って埃を払った。そして俺の方に向き直るとキョトンとした顔をし、首を傾げる。
「てかマリオじゃん、こんな所でなにしてんのさ」
「俺が聞きてぇんだけど」
目をパチクリとさせながら疑問をぶつける彼に対し、逆に疑問をぶつける。少し不服そうな顔をすると、彼は自分の事を話し始めた。
「僕はただ単にここが静かで読書しやすい場所だから来てるだけだよ。ま、木の上の方で読書してたらいつの間にか大量発生してるスパイダーに襲撃を受けたおかげで、本を落っことして今探しに来てたんだけどね!見つかってよかったよー!!」
嬉しそうに頬に魔導書をすり寄せる。そしてまた俺の方に向き直り、マリオはなんでここにいるの?と質問をしてきた。
「俺はまた冒険だ、実はな…」
と、話を始めようとしたところでマステラに口元を抑えられた。抗議の声を立てようとすると、なにか来ると一言。彼が入ってきた扉の向こうを見つめ魔導書を構えた。
その時。赤い扉が音を立てて崩れ落ち、中から大量のスパイダーがこちらに向かって迫ってきた。
「どうする?マリオ」
ニンマリと微笑んで魔導書を構えた彼が俺に問う。
「もちろん、撃退してやらァ」
ニンマリとこちらも微笑み返して答えると、彼はそうこなくっちゃ!と嬉しそうに笑って前を向いた。
マステラが魔導書を開けて呪文を唱えると、自然と力が湧いて出てくる。強化魔法が掛かった拳を握り固めた俺は、迫り来るスパイダー一体一体にゲンコツをお見舞し、次々と蹴散らしていった。だが流石に俺一人で処理し切るのは無理があるのか、数体は強化魔法を唱えるマステラの方に向かっていく。
「マステラ!そっち行ったぞ!」
「りょーかい!」
俺の掛け声に返事したマステラは魔導書のページを変え、また別の呪文を唱え始める。
「唸れ雷…テンペスト!!」
マステラが目を光らせ呪文が言い終わると、目の前まで迫ってきていたスパイダー数体の頭上に雷雲が作り出され雷が落とされる。雷に撃たれ呻いたスパイダー達は、瞬く間に力尽きていった。
「やるぅ」
感心の声を上げると親指を上げて嬉しそうに笑い、また強化魔法を唱え始めた。
そんなことが数十分続き、気が付けばスパイダーは残り一体になっていた。
「これで、ラストだ!!」
渾身の一撃を食らわせると、スパイダーが呻き声を上げて瀕死した。もう強化魔法が唱える必要が無いと呪文を口にするのをやめたマステラが、ページを変えて別の呪文を口にする。
「僕らに癒しを…マスヒール!」
呪文を唱えられた瞬間、俺の体から疲労感や傷が消えていく。治癒魔法だ。
「相変わらず便利だよな、それ」
「でっしょー?」
俺の便利だという言葉に満足げに頷くと、軽く伸びをして魔導書を仕舞う。
「でもどうしてこんなにスパイダーが大量発生してるんだろうねぇ」
「さぁなぁ…」
マステラの疑問を思えば妙だと首を傾げた。この大樹はプニ族とトゲ族が平和に暮らしており、スパイダー達も極端に多くはなく、上手く共存して暮らしていたはずだった。だが先程の大量のスパイダーを見る限り、明らかに異常が起きていることは明白だった。
「もしかして、なにか大量発生する原因が奥にあったりするのかな?」
その言葉に俺は頷いた。そういえば返したスターストーンはどうなっているんだろうか。もしかして、奥地に祀られているスターストーンに何かあったのではないだろうか。
「マステラ、一番奥まで付き合ってもらっていいか?」
とりあえず行ってみなければ分からないとマステラに共に着いてきてくれる様に頼む。心強いというのもあるが、そもそもここへは勇者を探しに来ていて、マステラである可能性が高いのだ。そしてマステラの紋章が現れるきっかけがこれになるのだとしたら、それはそれで一石二鳥だからである。
「んー、いいよー。魔導書見つけてくれたしねー!」
マステラは二つ返事で了承をくれると、早く行こうよと壊された赤い扉の向こうを指さした。
「おう、行くか!」
返事をすると満足そうに頷きマステラが向こう側へと歩いていく。俺は帽子をかぶり直し、マステラが進んでいった方へと駆け足で着いて行った。
「結局、なんで来たの?」
マステラが戦闘前に聞きそびれた事を聞いてきた。そういえば話損ねてた。
「実はな…」
と、ラインの事、勇者の事を含め、出来るだけ簡単にマステラに説明をした。勿論、まだ確定してはいないのでマステラが勇者の一人かもしれないということは言っていない。
「なるほどー、それでまた勇者探しの冒険してるわけか。英雄様は大変だねー」
呑気そうにいう彼に俺はそうでもないぞと答える。大変だが、冒険好きの俺にこれ以上に楽しいことなどないのだから。
「というか、まーたルイ君留守番か」
とマステラが声を上げる。その言葉は俺の心臓にグッサリと刺さったようで心臓がキリキリ痛み始める。
「いっつもだよねー。冒険行く時はいーっつも留守番。たまには連れて行ってあげたらいいのに、全然行かせてあげないし。ルイ君可哀想ー」
「やめろ心臓が痛い」
グサグサと良心に刺さる言葉で責め立てるマステラに制止の声を上げる。自覚してたのかぁと嬉しそうな顔でいう彼は本当にドSだと思う。
「自覚あるっつーの。でも弟に危険な目には合わせられないだろ…?」
「いやルイ君の方が強いじゃん」
もっともな事を言ったらもっともな事を言い返された。確かに弟の方が強い、それは知ってる。この前も終点で戦ったらボロ負けしたの覚えてる、忘れてない。凄く悔しかったから。でも…。
「そうじゃないんだって…。強いのは知ってっけど…それでもさ…」
「ま、気持ちは分かるけどさー。たまには連れてってあげなよねー。おにーいさん」
兄として、弟を危険な前線には行かせたくない。そこまで言ったがあとの声は萎んで相手には聞こえていないようで、途中で言葉を遮られる。意地悪そうに微笑む彼に何も言い返せない俺は、苦虫を噛み潰したような顔でため息を吐いた。
-続く-
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