地上と地下と双子の英雄 プロローグ 前編
『………リオ……』
『……マ……オ……』
何処からか、誰かの声がする。誰の声だろうか。聞き覚えのない。男の声。
『マリオ………ハザマタウンへ行くのです……さすれば……道は開かれん……』
ハザマタウン………次元の違う所に存在している街…。そこへ行けって言われているのか、俺は。
『マリオよ……ハザマタウンへ向かいなさい……』
そんな声を聞きながら、俺はゆっくりと目を覚ます事になる。
「なーんだ、今の夢は」
目を覚ますとそこはいつも通りの自分のベッドの上。いつもの様に上体を起こして伸びをする。気の済むまで伸びをした後は、見た夢を思い返す。
「ハザマタウン…か……」
久しぶりに聞いた町の名前。以前旅の拠点地としていた次元の狭間にある町の名前だ。にしても、なんでそんなところに呼ばれなきゃいけないんだか。
「何か…あったのかよ」
溜息をつきながら不穏を漏らしてみせる。だが反応してくれる人は誰もいない。
「出掛けたのか…?」
いつもは隣のベッドで寝ている最愛の弟は居ない。いつもなら起きていたとしても起こしに来てくれるのだがそれもない。やはり出掛けてしまったのだろうか。仕方ない。そこまで考えて、ベッドからおり着替える。
「朝ご飯、作ってくれてっかなぁ」
階段を降り、リビングに着く。テーブルの方を見るとあからさまに書き置きのメモが置いてあった。
「用事があるんでー、おさきにひっつれーしゃーす♪」
と、マステラ。
「嫁に呼ばれたんで、里帰りしてきます」
と、ルーム。
「Dr.に用事頼まれたから先に出るね、カトレアにお留守番は頼んであるから。朝ごはんはカトレアに聞いてください」
と、ルイージ。
まぁ、揃いも揃ってお出かけたァ。
「忙しい身分だな、こいつら」
「マリオも相当忙しい身分だけどね」
声を掛けてきたのはルイージの書き置きにあったカトレアだ。自称女悪魔としてルイージの身の安全のために取り憑いているらしいのだが本当のところは定かではない。
「で、朝ごはんはなんだ?」
「目玉焼きとトースト。目玉焼きは作り置きしてあるから皿に盛り付けて、トーストはチンッしてね」
「おー」
カトレアに説明されながら台所を漁り言われたことをそのままやり始める。慣れないコーヒーの機械をカトレアに教わりながら使い目当てのものを淹れるのとトーストが焼き上がるのは同時だった。焼きあがったトーストの上に目玉焼きを乗せ、コーヒーと共にテーブルに持っていく。ふと、二人分コーヒーを作ってしまったと気付きカトレアの方を見上げる。カトレアは首を傾げるもコーヒーの機械と俺を見比べ意図に気付いたのか首を振った。
「相変わらずお前は飲まないのな」
「飲む必要がないし、第一貴方の淹れるコーヒーは苦いもの。苦手なのよ」
苦いからってか?と寒い突っ込みをしそうになりながらコーヒーを口に含む。砂糖もミルクも何も入れない故に、完全なブラックコーヒーな為、悪魔である以前に女である彼女には飲む必要があったとしても苦くて飲めたものじゃないのだろう。そういえばルイージとマステラも砂糖すら一つも入れないのかと嘆いていたことがある。そんなに苦いものだろうか、ルームは平気で飲んでいるが。
「マリオもどこかに出掛けるの?」
「おう、ちょっとな。遅くなるかもしれねぇ」
「冒険?」
カトレアの質問に感極まって、思わずニヤリと含み笑いをしてしまう。そうか、こんな形で呼ばれたということは、また冒険が始まるに違いないよな。
「おう、そんな感じだ」
「ふーん、気をつけてね?なんか、悪い予感がするから」
いつも通りの冒険かと納得した様子のカトレア。悪い予感がするとはいうが、俺が冒険に行くと大概何処かで悪い予感が当たるのはいつもの事だ、慣れっこである。
「そういうの、慣れっこなのは知ってるだろ?ご馳走様」
「知ってるけど、今度のは凄いと思うよ!」
食器を片付け始める俺を追いかけながら必死でそういうカトレア。悪魔故に何かを感じ取ったのだろうか、少し切羽詰まっている様子だ。
「………どんぐらいだ?」
「………黒のヨゲン書の時、ぐらい?」
「余裕」
「えぇー!?」
大袈裟に叫ぶカトレア。
黒のヨゲン書。俺が初めてハザマタウンに訪れた時にキーとなった予言の書物だ。結果、予言による世界の破滅は阻止できたのだが、確かにあの時もピュアハートを集めたり弟がアイツに使われたりと散々な目にはあったが終わってみればそんなに辛くもない冒険だった。
「世界の危機なんてもう何回救ってんだよ、大丈夫だって。心配すんな」
そう言って笑ってやると相手もキョトンとしながらもにっこり微笑み返してくる。悪魔のくせに妹っぽくて可愛いやつだ。
「先に誰かが帰ってきたら伝言頼むな。知らない奴のチャイムは出るなよ?」
「分かってるよ!ルイージに何回も言われたもん!」
「何回も、な」
何十年も生きている悪魔らしいが、基礎知識は小学生並みな為こういうことは言っておかないと何かをやらかされる危険がある。念には念を、ルイージが何回も言った理由もそれだ。
「よし、行くか」
食器も洗い、いつもの制服も着用済み。所持金も確認し、帽子もかぶって準備は整った。あとはいつものアレを。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
カトレアと挨拶と言う名のハイタッチを交わした俺は、足早に家を出て目的地へと向かうのであった。
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「ウシャシャシャ!いらっしゃいませぇー」
ランペルの声が店内に響いた。どうやらお客様が来たようだ。
「いらっしゃい………ゲッ」
「よぉ」
来て欲しくなかった、客人がいらっしゃった。
「久しぶりだなぁ、メディ」
「んっふっふ〜♪その名前で呼ばないでって言ってるだろう?Per uccidere, strangolare」
「そう怒るなよ、仮面の奥から殺気が滲み出てんぞ」
滲み出してるんだよ?とは言わずに軽くため息を吐く。
「一体何の用?」
「近々、地下の連中共が騒がしくなる」
「!」
「意味は、分かるな?」
相手の真剣な目に、思わず唾を飲み込んだ。
「分かるよ、そのぐらい…。君はどうする気なんだい?」
「俺は好き勝手動かさせてもらう。お前も好きにしろよ、ディメーン」
コーヒーを飲み干し立ち上がる。相変わらず何も入れないで飲むもんだから、少しの苦味に相手の顔が顰めいた。
「面倒臭がらず、砂糖を入れればいいのに」
クスリと笑ってやると面倒臭いんだからさ仕方ないだろとため息が帰ってきた。
「また会おう、近々な」
未来が読めているかのように自分の感をさらけ出してお返しにとにやりと微笑んでカフェを出た。彼の飲んでいたコーヒーを片付けながら、僕はランペルを呼び店の引き継ぎを始める。
さて、これから大変そうだ。
-続く-