地上と地下と双子の英雄 プロローグ 後編
「つーいたっと」
指定の場所で次元ワザを使い見慣れた街へとやってくる。ハザマタウンだ。
「さぁて。俺を呼んだのは誰だ?」
久しぶりの街に少し気分を上げながら当たりをキョロキョロと見回す。見慣れた家に差し掛かりふと見ると、やはり見知った顔がこちらを見つけて声を掛けに来た。
「おぉ!やはり来たかマリオ!オヌシのことをずっと待っていたであ〜る!」
「デアール、久しぶりだな!」
久しぶりの感動に思わず握手を交わす。デアールも俺の顔を確認出来たことで嬉しそうに微笑んだ。だが、そんな場合ではないとすぐに真剣な表情に戻る。
「いかんいかん!呑気にしている場合ではないのだ!ハザマタワーに行くのであ〜る!」
「ハザマタワーに?」
ハザマタワー、黒のヨゲン書の事件でピュアハートを集める際に何度も使っていた塔。もう一度そこへ行くのか…。
「なんかよくわかんねぇけど行ってくるよ。ありがとな、デアール」
「うむ、武運を祈っているのであ〜る!」
デアールが深く頷き俺をハザマタワーへと促す。同じく頷いて、俺はエレベーターを使いハザマタワーの頂上へと向かった。
チンッという軽快な音とともにエレベーターの扉が開く。塔はいまだに変わっておらず、寧ろ冒険をする前の扉が一つしかない姿へと戻っていた。扉を触りながら昔冒険をした思い出に耽る。あの時も、デアールの説明を受けながらもこれから始まる大冒険に胸を踊らせていた。
そして、今も。
「懐かしいですか、その赤い扉」
誰もいないと思っていたこの空間。突然の話声にビックリしながら扉を目線からそらす。すぐ横にはいつの間にかいた俺と同じようなヒゲを携え、左半分の顔に包帯を巻いた青年が立っていた。
「初めまして、勇者よ。僕はライン・ウォーカー、よろしく」
青年は一礼すると、そんな風に挨拶をする。夢と同じ声、つまり夢で俺をハザマタウンに呼んだのはこいつなんだろう。
「いきなり呼ばれて、混乱するやも知れません。ですが今は切羽詰まっている状況です」
「分かってる、勿体ぶらずに説明しろよ」
「ありがとう」
そう言ってニコリと微笑んだあと、一つ咳払いをした。そして真剣な目つきで俺を見据える。
「この世界に地上とはまた違う別世界が色々あるのはご存知ですよね?」
相手の問いかけに頷く。聞いたことがあるし実際に俺も体験したことはあった。
「そしてその地上と一番近くにある別世界。それが地下世界アンダーグラウンドです」
アンダーグラウンド…聞いたことがないな。思わず首をかしげて見るが、知っていても知らなくても関係はないらしく話は進められる。
「そして、今その地下世界が活発に活動を始めています。良くない傾向に思わず僕は、未来を予知しました」
そこまで聞いて目をぱちくりとさせる。
こいつ今なんといった。未来を予知したっつったか。
「お前、未来予知出来んのかよ」
「不完全ですが、そういう一族の末裔ですので」
俺の純粋な気持ちに素直に答える。不完全とは、ハッキリと見えないということだろうか。いずれにせよ黒のヨゲン書と同じような力を持つ人間がいたとは。
「話を続けても?」
驚きながらも、静かに頷いた。
「…僕の未来予知によれば……アンダーグラウンドの連中の企みは、赤い帽子に青いツナギ、フサフサのヒゲの男。……つまり貴方を含めた七人の勇者がその復活を阻止、または根源を退治してくれるというのです」
なるほど、一人目は俺確定なのもいつも通りだな。
「ですが、残りの六人までは僕の未来予知ではハッキリと出ませんでした。唯一分かっているのは勇者達にはそれぞれ右手の甲に星型の紋章が付くということだけ」
「つまりなんだ。俺に紋章がついてる勇者達を扉の向こうから探し出してこいってことか」
そう言いながら今の話の途中から見えていた、手袋に隠れていた右手の甲を相手に見せる。
「そうなのです!流石は勇者様、話が早い」
喜びながら俺の右手に両手を添える。すると、不思議なことに右手の紋章が光り輝き扉と共鳴を始めた。しばらくすると光が止み、代わりに扉の鍵が開く音がした。
「なるほど、ピュアハートの次は星型の紋章か」
紋章を掲げながら呟く。満足すると青年の方に向き直りニッカリと笑った。
「よし、やってやろーじゃねぇか」
「ありがとうございます!」
この扉の先に、二人目がいるという。どんな奴かは知らねぇが、右手の甲を見りゃすぐだろ。
「あ、一つだけ注意点を」
「あ?」
「先ほどのように、紋章というのは最初からついてるものではないのです。選ばれしものと言えど、まだ不完全。なんらかのキッカケがないと出現しない可能性があります。マリオさんの紋章も、僕の話を聞いてから浮かび上がったものですから」
なるほどな。どうやら勇者集めは一筋縄ではいかないらしい。
「そうかい、分かった。まぁ、任せとけ」
これはまた、長い旅になりそうだと扉に手をかける。
最初の世界ははてさていかほどなものか。
ワクワクしなが赤い扉を開け、光に包まれながらその場所へと赴く。
そうして着いた先には、白と黒しか色のない森が広がっていた。
「あっれー?おっかしいなぁー…何処に行ったんだろう。僕の大切な物…」
-続く-
地上と地下と双子の英雄 プロローグ 前編
『………リオ……』
『……マ……オ……』
何処からか、誰かの声がする。誰の声だろうか。聞き覚えのない。男の声。
『マリオ………ハザマタウンへ行くのです……さすれば……道は開かれん……』
ハザマタウン………次元の違う所に存在している街…。そこへ行けって言われているのか、俺は。
『マリオよ……ハザマタウンへ向かいなさい……』
そんな声を聞きながら、俺はゆっくりと目を覚ます事になる。
「なーんだ、今の夢は」
目を覚ますとそこはいつも通りの自分のベッドの上。いつもの様に上体を起こして伸びをする。気の済むまで伸びをした後は、見た夢を思い返す。
「ハザマタウン…か……」
久しぶりに聞いた町の名前。以前旅の拠点地としていた次元の狭間にある町の名前だ。にしても、なんでそんなところに呼ばれなきゃいけないんだか。
「何か…あったのかよ」
溜息をつきながら不穏を漏らしてみせる。だが反応してくれる人は誰もいない。
「出掛けたのか…?」
いつもは隣のベッドで寝ている最愛の弟は居ない。いつもなら起きていたとしても起こしに来てくれるのだがそれもない。やはり出掛けてしまったのだろうか。仕方ない。そこまで考えて、ベッドからおり着替える。
「朝ご飯、作ってくれてっかなぁ」
階段を降り、リビングに着く。テーブルの方を見るとあからさまに書き置きのメモが置いてあった。
「用事があるんでー、おさきにひっつれーしゃーす♪」
と、マステラ。
「嫁に呼ばれたんで、里帰りしてきます」
と、ルーム。
「Dr.に用事頼まれたから先に出るね、カトレアにお留守番は頼んであるから。朝ごはんはカトレアに聞いてください」
と、ルイージ。
まぁ、揃いも揃ってお出かけたァ。
「忙しい身分だな、こいつら」
「マリオも相当忙しい身分だけどね」
声を掛けてきたのはルイージの書き置きにあったカトレアだ。自称女悪魔としてルイージの身の安全のために取り憑いているらしいのだが本当のところは定かではない。
「で、朝ごはんはなんだ?」
「目玉焼きとトースト。目玉焼きは作り置きしてあるから皿に盛り付けて、トーストはチンッしてね」
「おー」
カトレアに説明されながら台所を漁り言われたことをそのままやり始める。慣れないコーヒーの機械をカトレアに教わりながら使い目当てのものを淹れるのとトーストが焼き上がるのは同時だった。焼きあがったトーストの上に目玉焼きを乗せ、コーヒーと共にテーブルに持っていく。ふと、二人分コーヒーを作ってしまったと気付きカトレアの方を見上げる。カトレアは首を傾げるもコーヒーの機械と俺を見比べ意図に気付いたのか首を振った。
「相変わらずお前は飲まないのな」
「飲む必要がないし、第一貴方の淹れるコーヒーは苦いもの。苦手なのよ」
苦いからってか?と寒い突っ込みをしそうになりながらコーヒーを口に含む。砂糖もミルクも何も入れない故に、完全なブラックコーヒーな為、悪魔である以前に女である彼女には飲む必要があったとしても苦くて飲めたものじゃないのだろう。そういえばルイージとマステラも砂糖すら一つも入れないのかと嘆いていたことがある。そんなに苦いものだろうか、ルームは平気で飲んでいるが。
「マリオもどこかに出掛けるの?」
「おう、ちょっとな。遅くなるかもしれねぇ」
「冒険?」
カトレアの質問に感極まって、思わずニヤリと含み笑いをしてしまう。そうか、こんな形で呼ばれたということは、また冒険が始まるに違いないよな。
「おう、そんな感じだ」
「ふーん、気をつけてね?なんか、悪い予感がするから」
いつも通りの冒険かと納得した様子のカトレア。悪い予感がするとはいうが、俺が冒険に行くと大概何処かで悪い予感が当たるのはいつもの事だ、慣れっこである。
「そういうの、慣れっこなのは知ってるだろ?ご馳走様」
「知ってるけど、今度のは凄いと思うよ!」
食器を片付け始める俺を追いかけながら必死でそういうカトレア。悪魔故に何かを感じ取ったのだろうか、少し切羽詰まっている様子だ。
「………どんぐらいだ?」
「………黒のヨゲン書の時、ぐらい?」
「余裕」
「えぇー!?」
大袈裟に叫ぶカトレア。
黒のヨゲン書。俺が初めてハザマタウンに訪れた時にキーとなった予言の書物だ。結果、予言による世界の破滅は阻止できたのだが、確かにあの時もピュアハートを集めたり弟がアイツに使われたりと散々な目にはあったが終わってみればそんなに辛くもない冒険だった。
「世界の危機なんてもう何回救ってんだよ、大丈夫だって。心配すんな」
そう言って笑ってやると相手もキョトンとしながらもにっこり微笑み返してくる。悪魔のくせに妹っぽくて可愛いやつだ。
「先に誰かが帰ってきたら伝言頼むな。知らない奴のチャイムは出るなよ?」
「分かってるよ!ルイージに何回も言われたもん!」
「何回も、な」
何十年も生きている悪魔らしいが、基礎知識は小学生並みな為こういうことは言っておかないと何かをやらかされる危険がある。念には念を、ルイージが何回も言った理由もそれだ。
「よし、行くか」
食器も洗い、いつもの制服も着用済み。所持金も確認し、帽子もかぶって準備は整った。あとはいつものアレを。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
カトレアと挨拶と言う名のハイタッチを交わした俺は、足早に家を出て目的地へと向かうのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ウシャシャシャ!いらっしゃいませぇー」
ランペルの声が店内に響いた。どうやらお客様が来たようだ。
「いらっしゃい………ゲッ」
「よぉ」
来て欲しくなかった、客人がいらっしゃった。
「久しぶりだなぁ、メディ」
「んっふっふ〜♪その名前で呼ばないでって言ってるだろう?Per uccidere, strangolare」
「そう怒るなよ、仮面の奥から殺気が滲み出てんぞ」
滲み出してるんだよ?とは言わずに軽くため息を吐く。
「一体何の用?」
「近々、地下の連中共が騒がしくなる」
「!」
「意味は、分かるな?」
相手の真剣な目に、思わず唾を飲み込んだ。
「分かるよ、そのぐらい…。君はどうする気なんだい?」
「俺は好き勝手動かさせてもらう。お前も好きにしろよ、ディメーン」
コーヒーを飲み干し立ち上がる。相変わらず何も入れないで飲むもんだから、少しの苦味に相手の顔が顰めいた。
「面倒臭がらず、砂糖を入れればいいのに」
クスリと笑ってやると面倒臭いんだからさ仕方ないだろとため息が帰ってきた。
「また会おう、近々な」
未来が読めているかのように自分の感をさらけ出してお返しにとにやりと微笑んでカフェを出た。彼の飲んでいたコーヒーを片付けながら、僕はランペルを呼び店の引き継ぎを始める。
さて、これから大変そうだ。
-続く-